このブログを書くキッカケになったお話。全10話のシリーズ記事です。
海外経験豊かなハーフがゴリゴリの日系企業に就職してみた。
第3話です!
第1話から読む:
『社訓の唱和』とかいう恐ろしい行事
新入社員研修の2日目。
ここで、研修中に一番衝撃を受けた事が行われました。
それは…。
社訓の唱和。
…何のことかわかりますかね? コレ。
ドイツハーフにとっては、マジで衝撃でした。
要するに、会社には企業理念みたいなモノがあって、それを全員で一斉に大きな声で読み上げる(唱和する)のです。
…ヤバくね?
日本の会社にはよくある事なのだろうか。
そうえいば、学校みたいに『朝礼』がある会社や職場もたくさんあるらしい。
朝礼や朝の唱和を行う職場は日本に多く存在します。「経営目的の確認」「結束力の向上」などがその目的と言われますが、効率やリソースを無視した時間でもあり『参加は絶対!』という思考停止な慣行である場合も。不効率な働き方を嫌う欧米諸国ではまずあり得ません。
しかもご丁寧に、折りたたんでカードサイズになる小さな冊子に、会社の社訓がまとめられています。
「いつでも持ち歩けるように!」なのだとか。
これ…マジ?
思わず半笑いになるコダモン。
その冊子には、「会社の人間としてどうあるべきか」とか「お客サマへの価値創造」とかが、つらつらと書かれているのです。
「我々、〇〇(会社の名前)は、ホニャララの精神に則り…!」
みたいなかんじのやつが、長々と続くのです。
そして、これをみんなで一斉に、大きな声で唱和するのです。
…タイムスリップした?
戦時か?
いまだにこんな事が行われているなんて。シンジラレナイ。
東証一部上場の、数万人規模でビジネスを展開するグローバルな企業なのに。
社訓の唱和て…。
ドイツ人とか欧米人がコレを見たら、まさにジャパニーズ・ジョーク。もうネタの領域です。
例の冊子を渡されるだけならまだいいのですが……。
カヤさんの「さん、はい!」で元気良く唱和がスタート。
周りの同期は躊躇(ちゅうちょ)せずに「○○精神に則り…!!」としっかり大きな声でやっています。
何コレ怖い。
いやいや。
マジで何のためにやるのコレ?
毎年恒例の伝統行事だから? それとも本気で企業精神を刷り込もうとしてる…??
ちなみに、カヤさんお得意の「声が出ていない!」「元気がない!」のおかげで、この日は5往復ぐらいしました。
これはキツイ。
体力的じゃなくて、精神的にキツイ。
海外が長かったドイツハーフにとっては、顔をぶん殴られるくらい大きな衝撃でした。
しかもコレ、研修中は毎朝やるらしい。
さらに、次の日以降は班の代表が一人ずつ交互に登壇に立って、日替わりで先導者を交代しながら唱和が行われた。
班長という役柄上、自分も研修中に何度か先頭に立って大きな声で企業理念の唱和を先導しました。
仁王立ちでやったよ
郷に入れば郷に従えというわけで、とりあえずやってみた。
けれど…。
さすがに違和感を覚えて、カヤさんに「コレって毎年やっているんですか?」と聞いてみた。
それでも、「もちろん!」と元気な返事が返ってくるだけ。マニュアルが絶対だと思っているフシがあるのか…。異論なんて唱えないんだろうな。
どっかの変な宗派に入ったかのような気分です。儀式にしか見えない。
そして何より、やる事が圧倒的に古い。
部署に配属となってからは、この『社訓の唱和』に一度も出会わなかったのが、不幸中の幸いでした。
「日本のサラリーマン」になる現実
入社してたった数日。
新入社員研修に参加しただけなのに、ドイツハーフはもうお腹いっぱいになりそうでした。
仕事もまだしてない。疲れるような作業もしていない。何のプレッシャーも無いはずのに!
それなのに、なぜかゲンナリ。
理由はもちろん、『班長決め』とか『社訓の唱和』とかを目の当たりにしたから。
工場見学に行かせてくれたかと思ったら、感想文を書かされたり。
感想文て…。そういえば、昔学校で『読書感想文』とか書いたなぁ。
小学生かよ
大人になってまでこんな事させられて、ちょっと恥ずかしい気持ちになった。
これが日本の会社の姿なのか?
今まさにこの会社は、新入社員研修を通して『学校の集団行動』みたいに新人を育てようとしている。
世界を相手にビジネスを展開するグローバル企業なのに…?
なんかもう…。お先真っ暗なイメージしかないんだが。
海外で自由に過ごしてきたハーフに、やっぱり日本の会社は無理なのかしら。
不安だぁー
座学も淡々と続いて、各事業部の事業内容の説明とかが続く。
そして、そこで講義をする人はみんな:
「君たちはもう立派な社会人なのです!」
「もう学生じゃないのです!」
「みなさんんはもうこの会社の人間なのです!」
…という、熱いメッセージを残していく。
何だコレ。
会社が新卒を大事な『人財』として育てたい気持ちはわかります。
でも、 「いいですね? しっかり会社色に染まってくださいね?」みたいなメッセージがイタイ。
言うことやること、とにかく古い。
全部古い。
これ本当にグローバル企業なの?
少なくともこの研修の中身は『超』がつくほど日本的で古風。
登壇に立つ役員の中には、こんなことを言う人もいました。
「考えてみてください。あなた達はもう既に、こうやって座って話を聞いているだけでお給料が発生しているのですよ?」
…だから何よ?
そんな言葉をおエライさんが言っているのを見て、本気で心配になりました。
「お前らはまだ『使い物』になってないぞ!」みたいな事が言いたいのかな?
それはそれでひく。
日本企業は新卒を一括採用して『社員が辞めないこと』を前提に教育します。学生は入社と同時に横並びにされて会社が決めたレールに乗せられ、「下っ端だから」という意味不明な理由で雑務を任せる職場もあります。年功序列や先輩後輩の制度で損をするのは日本だけです。
「頑張って早く一人前になってくれよ!」という激励ならいい。
でも違うんですよね。
会社の人間が登壇に立って話し始めると、「もうお前らは会社の人間なんだぞ!?」という上から目線のメッセージが強すぎる。
キモ〜い
その日の研修が終わって帰宅する時に、カヤさんに「お疲れ様です!」と挨拶する同期たち。そこに、すかさずカヤさんの指導が入ります。
「私はこの後、まだ仕事があります。だから、『お疲れ様』は間違い。帰るときには『お先に失礼します』と言いましょう!」
…それ大事?
そう思ってウンザリする自分は、まだまだ心も思考もドイツ人。
でも、これから日本企業で仕事をするためには、こんなどうでもいい事にも気を配らなきゃいけないんだ…!
そう思うと、ちょっと憂鬱な気持ちになる。
何とも言えない複雑な気持ちを抱えながら、研修は続きます。
居眠りする人が続出した新人研修
座学がメインの新入社員研修では、とにかく色んな講義が行われました。新人社員たちに、広く浅くベースとなる知識を与えるためです。
みんなしっかりメモを取りながら、外部の講師や上司たちの話に聞き入っています。
…と言いたいところですが、みんなついこの間まで自由方便な大学生。
ガンガン居眠りをします。
これには笑った。
というか、ちょっと頼もしいとさえ思った。
座りながら、急にコックリコックリと舟をこぎだす同僚たち。
壇上で講義をする人からは、その姿は丸見え。
社内の偉い人も登壇に立つのに、居眠りする新人は100 %バレています。
未来の上司たちの前で、堂々と居眠り。
スゲェ…
壇上に立つ上司たちの中には、見て見ぬふりをしてやり過ごす人もいた。でも… 。
「おいコラ、そこのキミ。キミだよ。ずいぶんと気持ちよさそうだね…!」
と、すごむ人もいます
その度にみんな「ビクッ!」と目を覚ますものの、また居眠り。なかなか睡魔に勝てないらしい。
こうなると気が気でないのは、カヤさん。
案の定、「居眠り事件」があった後カヤさんから檄が飛びました。
「みなさんは、もう大学の講義に参加しているのはありません! 立派な社会人なのですよ? いつまでも学生気分でいないで、ちゃんと意識と自覚をもって、研修に参加してください!」
ごもっとも
しかし、コレが自分に飛び火。
業を煮やしたカヤさんは、ある日班長たちを集めてこう言い放ったのです。
「班員をまとめるのが班長です。もし班員が寝たら、しっかり起こしてやってください! 」
という事は…。
班員が寝たら班長にも責任アリ。
班長たちには、そんなメッセージが無情にもつきつけられました。それからというもの、班員が眠らないように気を配るせいで、講義にも集中できない。
まぁ居眠りがダメなのはわかる。
でも、もうちょっと『個人』に任せるべきじゃない?
居眠りなんて、そんなもの自己責任でしょ。
新入社員とはいっても、みんなもう大人。
居眠りしている人に直接注意して、終わりにすればいいのに。
ルールを守る事は大事だけれど、それに従うかどうかは個人の問題です。
新入社員に「社会人としての意識を育てる」必要があるのでしょうが、それにしても集団行動が過ぎる。
逆効果っていうパターンもあるし。
そのような日本の風土に慣れないまま、研修も後半へと進みます。
新入社員研修の良かったところ
新入社員研修はカルチャーショックでしたが、ポジティブな要素もありました。
会社の面子のためにも、良いところをご紹介。
まずはコレ。
全てががとても懇切丁寧!
大手の日系企業なら普通のことなのかな?
研修の段取りから講義内容、スケジュール調整まで、全てがとっても懇切丁寧でした。
さすが日本ー
丁寧過ぎて逆にウザさを感じるほどですが、それでも欧米のような放任主義よりよっぽどケアが行き届いている。
日本は諸外国に比べてサービス精神が格段に高い。それをこの研修を通して実感しました。
次に良かったのが、外部から人を招いた研修。
これも大手の特権なのかな? 新入社員研修を通して2〜3回ほどありました。
延々と話を聞くだけの座学とは違って、班に分かれてチームとしてタスクに取り組んだり、ディスカッションをしたり。
担当した外部の人間も『会社色に染まっていない』から、社内の人間が行う講義とは別の意味で興味深かった。
登壇していた会社の人間の顔は思い出せないけれど、外部の人を招いたビジネス研修は担当者の顔を覚えている。
それほど、研修によってモチベーションと意気込みに差がありました。
新入社員研修から配属先へ
そんなこんなで、ドイツハーフの長くて短い新入社員研修が終了。
最終課題には実務に近い環境でのグループワークとかあったけど、もうあまり覚えてない。
たった数週間でしたが、新卒の同期たちと切磋琢磨できたのはとても楽しかった。
最初は日本人離れした見た目におっかなびっくりだったメンバーも、最後は兄貴分のように慕ってくれました。
そんな同期達とは、ここでお別れ。
哀愁〜
彼ら/彼女らにはまだそれぞれ実地研修があり、散り散りになっていきました。
最後の飲み会で、「部署の配属になったらまたいつか会いましょう!」と言ってくれた、同期たち。
これからは、実際のビジネスの現場が待ち受けています。
みんなとの再会はいったん先。でも、自分にとってはこれからが本番。
いよいよ、部署へと配属されていきます…!!
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